


山科の里にある絵師の土佐将監の館にやって来たのは、弟子の浮世又平と女房おとく。生来言葉が不自由な又平に代わり、口達者な女房おとくが土佐の名字を授かりたいと将監に申し出ますが、絵の道で功を立てない上には難しいと、その願いは却下されました。弟弟子の土佐修理之助にも先を越されてしまい、絶望した夫婦は死を決意します。又平は、今生の名残にと庭先の手水鉢に自画像を描きますが……。
近松門左衛門の義太夫狂言の名作で、実直な又平と夫をかいがいしく支える女房おとく、この夫婦の絆と命を懸けて起こした奇跡が胸を打ちます。夫婦の深い情愛を描いた心温まる物語をご堪能ください。
大名の山蔭右京は、大の恐妻家でありながら浮気性。愛人の花子が都へやって来たことを知り、なんとか会いたいと願いますが、奥方玉の井が外出を許しません。そこで右京は、邸内の持仏堂に一晩中籠って座禅をすると嘘をつき、家来の太郎冠者に座禅衾を被せて自身の身替りにし、花子のもとへ向かいますが……。
狂言の大曲「花子」をもとにした舞踊劇。花子と一夜の逢瀬を叶え、ほろ酔い加減で帰ってきた右京が、自身と花子を踊り分けながらその様子を物語る場面はみどころの一つです。怒りに打ち震える玉の井と、それに気づかず浮かれた様子の右京の対比が、ユーモアも交えて描かれます。松羽目物に相応しい格調と品格のなかに、可笑しみが溢れる舞台をお楽しみください。

権勢を誇る蘇我入鹿の三笠山御殿へ、入鹿の妹の橘姫が戻ってきます。橘姫の振袖に赤い糸をつけて後を追いかけて来た恋人の求女が現れると、二人は御殿の中へ…。そこへ、求女を追って訪ねてきたのは、杉酒屋の娘お三輪。恋い慕う求女の裾につけた苧環の白い糸が切れてしまい途方に暮れるお三輪は、通りかかった豆腐買おむらにその行方を尋ねます。これから橘姫と求女が祝言を挙げると聞いたお三輪は御殿の中へ急いでいきますが、お三輪は橘姫の官女に弄ばれた挙句、聞こえてきたのは二人の結婚を祝う声。嫉妬に狂い、凄まじい形相となったお三輪が中へ押し入ろうとすると、漁師鱶七が立ちはだかり……。
大化の改新を素材とした『妹背山婦女庭訓』。ドラマチックな展開の「三笠山御殿」は、お三輪の切なく情熱的な恋心が胸を打ちます。重厚かつ壮大な歴史ドラマにご期待ください。
静かに雪の降る水辺に、白無垢姿の娘が佇んでいます。蛇の目傘を差したこの娘は、人間の男との道ならぬ恋に思い悩む鷺の精で、切ない恋心を次々と見せていきますが、やがて苦しみもがき出し……。
恋に迷う女性の姿を様々に見せていく本作は、幻想的な美しさの中で激しく凄まじく踊る幕切れは必見です。歌舞伎舞踊の名作を是非ご覧ください。